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学生からみた授業

佐井くんから見た授業-医師になるまで vol.6

こんにちは。医学部5年の佐井です。前回に引き続き今回も法医学について書いていこうと思います。前回の内容は講義で聞いたものについてでしたが、今回の内容は4年生前期に社会医学実習で私が体験したものです。基礎医学の実習と臨床実習は全員が全科を必修で受講するのですが、社会医学実習だけは選択必修科目になっていて、7~8種類の中から1つを選んで受講することができます。私が受講したDNA鑑定以外にも、医療行政、中毒、地域医療などさまざまなテーマがあり、また講座によっては、現場を知るため、中部空港検疫所、東海北陸厚生局、岐阜県高山市にある丹生川診療所などを訪れ、実際に働く人たちの声を聞くフィールドワークをするものもありました。私は実習中に、愛知県警察科学捜査研究所を見学してきましたので、最後に少しだけご紹介しようと思います。

 

鑑定とは

裁判についてはあまり詳しくないのですが、審理において重要なのは「何が / 誰が、どうした」というところです。例えばモノに注目した場合、どの銃から発射された弾丸なのか、現場に残ったのはどの車に使われている塗料なのか、なんかが大事な情報ですよね。こういったときは物理鑑定と呼ばれる方法で調べます。対して、人に注目した場合、つまり「個人の識別」をしようと思ったときには、現在ではDNA鑑定が最も信頼できる鑑定です。ただ、DNA鑑定ができない場合や、DNA鑑定を気軽にできなかった時代は、血液型の鑑定が「個人の識別」に役立てられてきました。実習では自分たちの血を使って血液型判定をしました。

 

ABO式血液型

ABO式血液型は1901年にオーストリア=ハンガリーの医学者であるラントシュタイナーにより論文発表された分類法で、一番なじみがありますよね。各血液型は性格によって分類される...わけではなく、抗原抗体反応という反応によって分類されます。

抗原抗体

抗原抗体反応とは抗原(花粉とかバイ菌とか)に対して、血液の中にある抗体がくっつく反応です。この抗体と呼ばれる物質の特徴は、なんにでもくっつくわけではなく、特定のものにしかくっつかないというところです。

 

 

O型・AB型ABO式血液型を調べるときは、赤血球の表面にある特徴的な構造にくっつく2種類の抗体を使って調べます。A型に特徴的な構造(A抗原)にくっつく抗体を抗A抗体と呼び、B型に特徴的な構造(B抗原)にくっつく抗体を抗B抗体と呼びます。抗原と抗体がくっつくと肉眼では血が固まっている様子が見てとれます。A抗原に対して抗B抗体はくっつかないので、血は固まらず、赤く濁っている様子が見られます。AB型の赤血球は両方の抗原を持つのでどちらも固まり、O型の赤血球はA抗原もB抗原も持たないのでどちらも固まりません。

左の写真では、上の段がAB型の赤血球、下の段がO型(私)の赤血球で、それぞれ抗A抗体が含まれる青い液体と混ぜたものが左側、抗B抗体が含まれる黄色い液体と混ぜたものが右側です。

 

まとめると下の表のような結果となります。 

  A型の赤血球 B型の赤血球 O型の赤血球 AB型の赤血球
抗A抗体 固まる 固まらない 固まらない 固まる
抗B抗体 固まらない 固まる 固まらない 固まる

このように既知の抗体(青黄の液体)を使って、未知の抗原を調べる試験をオモテ試験といいます。逆に、未知の抗体に対して、既知の抗原を使って調べる試験をウラ試験といい、実際の鑑定においては必ずセットで試験し、誤りがないようにします。 

 

DNA鑑定

人間の遺伝子を記述しているDNAの配列はほとんど同じですがわずかに違うところもあります。このわずかな違いを使って本人かどうかを鑑定します。理想的にはその人のDNAの配列をすべて解析して、現場に残された試料などと完全に一致するかを一つひとつ照合していくのでしょうが、31億ほどある塩基対をすべて見ていくのは大変すぎて現実的ではないですよね。ですから、実際の現場で個人の識別にはSTR(short tandem repeat)と呼ばれる繰り返し配列が使われています。DNAは4種類あり、この4種で遺伝子は記述されますので、『AGCTGTGCA』のように遺伝子は書かれているわけですが、この中に『CTCTCTCTCT』とか『AGCAGCAGC』といったように、CTやAGCなどの短い配列が何度か繰り返されている場所があります。この繰り返しの回数が個人個人で違ってくるので、その部分の長さを比較することで個人の識別をします。

STRを使った鑑定たとえば、親子鑑定の場合を考えてみましょう。人間は同じ部分についての遺伝子を2つ持っています。1つは父親から、もう1つは母親から受け継いだものです。では実際に左の図で、子どものDNA配列を見てみると、遺伝子上のある部分に特定の短い配列が31回と64回繰り返されている場所があります。この64回の方は母親から受け継いだ部分で、残りの31回の方は父親から受け継いだ部分だと考えられます。したがって、この子の父親としては候補Aよりも候補Bである可能性が高いといえるのです。一か所だけでは不十分なので、同じように繰り返しがある部分を比較することで、より鑑定の精度をあげていき、現在では99%以上の精度となっています。

 

科捜研見学

実際の事件の捜査においてさまざまな鑑定が必要とされますが、それを担うのが警視庁と各道府県警に付属する科学捜査研究所です。所内は5つに分かれていて、法科学、文書、心理、物理、化学という分野があります。DNA鑑定などを行うのが法科学、偽造紙幣や筆跡などを扱うのが文書、銃弾などを調べるのが物理です。心理では、対象者の呼吸や血圧、脈拍、皮膚の電気反応などを同時に測定、記録するポリグラフという装置を使って、証言の信憑性をはかります。これは実際にやってもらいましたが、ウソをつくと波形が少し乱れてばれてしまいましたね。ポリグラフだけで証拠にはならないそうですが、熟練した研究員だとわずかな違いで見分けることができるそうで、ウソはつけませんね。化学では、覚せい剤などを扱っていて、実際に捜査員が持ち歩く、簡易検査キットを見せていただきました。

覚せい剤簡易検査キット小さなプラスチックでできた試験管の中に、ガラス管で密閉された試薬が入っています。試験管の中に覚せい剤を入れて、蓋を閉め、試験管越しにガラス管をパキッと折ると、試薬と覚せい剤が混ざって、すぐに下のように青くなります。これなら持ち歩くことができて、判定も簡単にできるので広く使われているそうです。

 まとめ

実習では、採った血を使ってほかにも、酒に強いか弱いかがわかるDNAなんかも調べました。私に関して言えば、血液型はO型で酒も弱いという予想通りの結果で、ひとまず安心しました。科捜研の見学では、普段見せてもらえないようなところまで見せていただき、また捜査で実際使われる手法を体感できとても興味深かったです。医学部の実習だとこんなものがありますが、ほかの学部にもいろいろと特徴的な実習があるみたいなのでみなさんぜひ受講してみてください!


バックナンバーはこちら

vol.5 衛生学・法医学

vol.4 独特な時間割・名大の特長

vol.3 組織学・病理学