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学生からみた授業

佐井くんから見た授業-医師になるまで vol.2

こんにちは。医学部5年生の佐井です。前回は臨床実習前の試験について書きましたが、今回は、基礎医学の実習であり、医学部の実習の中でもみなさんが最も気になるであろうところの、解剖実習についてご紹介します。

 

広い意味での解剖学 Anatomy

解剖学は2年生で履修する科目で、基礎医学に分類されます。2年生で履修する科目の多くは、人体の「正常な状態」を理解することに主眼を置いています。病気を考える前に、まず「正常な状態」を知っておかなければ、「からだの異変」に気づくことはできません。解剖学は、その中でも、「正常なカタチ、位置、機能」といったものを知る学問です。

生物というのは、一つひとつの細胞が集まって組織をつくり、組織が組み合わさって器官となり、器官それぞれが連携しあって個体をかたちづくっています。このうち、個体レベルから器官レベルの「正常」については目で見てわかることから、肉眼解剖学という分野で扱います。対して、顕微鏡を使って、組織レベルから細胞レベルの「正常」を捉えようとするのが組織学という分野です。また、人間は脳が他の動物よりも発達していて神経系が複雑になっているので、独立した神経解剖学という分野で扱われます。これらは、いわば完成品を眺めるようなものですが、それとは違ってもうひとつ発生学という分野があります。これは、一個の細胞である受精卵が細胞分裂をくりかえし、分化しながら個体ができあがっていくさまを解き明かす分野で、ここで得られた知見はiPS細胞など再生医療にも活かされています。

今回は、この4分野のうち、解剖実習をおこなう肉眼解剖学と神経解剖学について紹介していきます。

 

解剖実習

名古屋大学の解剖実習では、4人の学生で1体のご遺体を受け持ちます。このご遺体は防腐処理が施され、学内の低温の霊安室で保管されているもので、公益財団法人不老会(http://www.furo-kai.or.jp/)のご協力の下、提供された献体です。

2年生の4月から7月にかけて行われるこの実習は、まず骨標本の観察から始まります。骨どうしの位置関係を把握し、筋肉がどの場所につくのかということを意識しながら、スケッチを描き、名称を覚えていきます。この骨学実習を終えると、解剖実習が始まります。体表から順にメスを入れていき、筋肉の始点と終点、各種臓器の位置関係、血管や神経の走行などを観察しながら奥深くへと進んでいきます。このときも必要に応じてスケッチを描き理解を深めますが、解剖実習ではそれに加えて教員による口頭試問があります。よく問われるのは、与えられたCTやMRIなどの断層画像に写っている像の名称で、画像と、ご遺体とをよく見比べて三次元的な位置関係を理解するのが到達目標となっています。このとき、ご遺体を見ながら、「この高さで切ったら○○が写りこむはず」というように断面図を想像して答えるのですが、これは高校で習う立体の求積の考え方と似ていて、案外こんなところで数学の勉強が役立つものだなと感じました。

全身の解剖を終えると、脊髄と脳の解剖に移ります。やはり位置関係、神経線維や血管の走行を中心に観察していくのは同じですが、脳の観察で重要なのは脳溝と呼ばれる構造で、いわゆる脳のシワのことです。ご存知の通り、ヒトの脳は大脳がとても発達していて、さまざまな機能を持っているわけですが、ある程度は部位ごとに役割が決まっています。まだまだ部分的ではあるものの、過去の知見から「どこがどう働いているのか」ということがわかっているので、実際の標本でシワを目印に観察します。このような観察を経て、血管が栄養する部位と、その部位の働きがわかってくると、今度は病気の仕組みがわかってきます。たとえば脳梗塞や脳腫瘍などで脳の一部分が障害されたときに、どちらかにマヒがでるのか、言葉の理解が難しくなるのか、物が見えにくくなるのか、といったことがわかるようになります。おおまかに書いてみましたが実際には非常に複雑で、理解するのも一苦労、というより恥ずかしながらまだまだ理解できていないところがほとんどだと思います。神経系に限らず、実習中はヒトのからだの構造の複雑さと精緻さに驚かされるばかりですね。

すべての実習が終わったら、ご遺体を棺に納め、八事斎場での火葬に同行します。このとき、ご遺族とお話をする時間がありますが、改めて故人のご遺志と、またご遺族のご協力によって、この実習が成り立っていることを実感し、身が引き締まる思いがしました。

 

大腿部のスケッチ   上肢のスケッチ

絵がうまい後輩のスケッチを借りました。(左:大腿筋群 右:上肢の筋群)

 

まとめ

すべての医師と歯科医師が通る通過儀礼のようなものでもある解剖実習ですが、すべての医学部生、歯学部生が経験する一方で、これ以後この先の人生において立ち会うことはできても、特殊な場合を除いて、解剖をすることはもうできません。一生に一度しかない貴重な経験でもある解剖実習について今回はご紹介しました。

 
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