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学生からみた授業

佐井くんから見た授業-医師になるまで vol.11

こんにちは。医学部5年生の佐井です。今回は、社会医学の中から、「保健医療の仕組みと公衆衛生」と、「疫学と予防医学」についてご紹介しようと思います。

 

公衆衛生学 Public Health

公衆衛生を含む社会医学は、「個体が集まった集団」の健康を守るためのものでしたよね。注目すべき課題はたくさんあるのですが、今回はみなさんもインフルエンザなどで経験しているであろうワクチンに絞って説明していきます。ところで、みなさんはどういった理由でワクチンをうちますか?「自分が病気に罹りたくないから!」だと思います。しかし、医師側、あるいは、国や市町村の立場から見た場合、ワクチンの効果はそれだけではないんです。

 

集団免疫

例えば、病気の人(左図で赤)がいた時に、なにも対策をしていなければ、周りの人(左図で白)にうつって、さらにその周りへと次々とうつって、大流行してしまうわけです。

ところが、一部の人(左図で青)がワクチンをうって免疫をもつと、病気の人と接触しても、うつらなくなります。そればかりか、ワクチンをうっていない人たちも、ワクチンで免疫をつけた人たちがカベとなって病気から守ってくれるため、なにも対策をしていないときより、病気に罹る確率は格段に小さくなります。

 

このようにワクチンが、集団全体を病気に対して強くする効果を「集団免疫」といいます。集団免疫により患者の数が少なくなれば、治療にかかる費用を抑えることができるので、ワクチンの普及や実施は、行政にとって重要な医療政策のひとつです。

国にとっては、医療費の節約も大事なことですが、国民皆保険制の日本においては、いかに医療費を公平に分配するかも大切なことであり、そういった、行政の場で活躍している医師もいます。国家公務員であれば、厚生労働省や環境省などの省庁や、空港などの検疫所で働く医系技官が、地方公務員であれば保健所の職員などがそれに当たります。医系技官は、難関で知られる国家総合職の試験を受けずに、政策の立案に携われるので、官僚を目指す人にとってはいい選択肢かもしれませんね。

 

医師といえば、病院で見かける臨床医をみなさん想像されると思いますし、実際、数としては臨床医が一番多いことは確かです。しかし、臨床医の中にも勤務医と開業医があり、臨床以外では、大学あるいは企業の研究職や、今回紹介したような行政にかかわる仕事など、案外たくさんの道があります。少しイメージが変わったのではないでしょうか?

 

 

疫学 Epidemiology

疫学の始まりは、1850年代のJohn Snow 医師によるロンドンでのコレラ流行についての研究だと言われています。当時、コレラ菌の存在もわかっておらず、空気感染をすると思われていたのですが、患者が発生した家を地図に書き込んでみたところ、隣り合っているとは限らないことに気がついた彼は、井戸水が原因であると突き止めます。井戸の閉鎖で流行は収束したわけですが、このように、集団を対象として病気の原因や予防法を研究するのが疫学です。

 

疫学では、いくつかの研究手法を用います。例えば、「タバコと肺癌の関連」について示そうと思った場合、主に2つの手法が使われます。ひとつは症例対象研究といって、肺癌患者とそうでない人を集めてきて、それぞれの群でどれだけタバコを吸っている人がいるのかを数えるという方法です。もちろん、肺癌でない群が「健康そのもの!」という人たちだと比較にならないので、例えば「名大病院受診者のうち肺癌の人とそうでない人」というように、肺癌以外の条件はできるだけ揃えます。もうひとつは、コホート研究といって、ある集団を気長に観察する方法です。例えば、名古屋市に住む100万人を40年観察するとします。100万人の中には、タバコを吸う人も吸わない人もいるでしょうし、40年のうちに肺癌を発症する人もいるでしょう。それらを数えることで、タバコを吸うと何倍肺癌に罹りやすいかというデータを求めることができます。時間はかかりますが、より自然な分布の集団なので、信頼度の高い結果が得られます。

 

分析にあたっては統計学がよく用いられ、計算法もさまざまなものがあります。その中から、感度と特異度というものについて考えてみようと思います。感度と特異度は検査の有効性を測る指標で、感度は「罹患者のうち検査結果が陽性になる人の割合」のことで、特異度は「非罹患者のうち検査結果が陰性になる人の割合のことです。今回は、感度99% ・特異度90%のインフルエンザ検査を違う集団に対して実施すると、結果がどう変わるのか考えてみましょう。なお、検査ですから、誰に対しても行うわけではなく、咳や発熱などでインフルエンザが疑わしい人に対して行うものとします。

冬場に1000人疑わしい人が来たら、900人はインフルエンザに罹っているものとします。逆に夏場の発熱はインフルエンザでないことが多いので、1000人中100人がインフルエンザだとします。そうすると、以下のように表を埋めることができます。

インフルエンザ インフルエンザじゃない 合計
検査陽性 891 10 901
検査陰性 9 90 99
合計 900 100 1000

 

インフルエンザ インフルエンザじゃない 合計
検査陽性 99 90 189
検査陰性 1 810 811
合計 100 900 1000

こうしてみると、的中率が全く違うのがわかるのではないでしょうか。冬場は検査陽性の人のうち9割以上が実際にインフルエンザに罹っているのに対し、夏場はなんと半分弱がインフルエンザじゃなくても検査結果が陽性になってしまいます。この例からわかるのは、どんなに優れた検査法でも集団の構成によって、結果が全く違うということです。数字のトリックとしては面白いところですが、判断が難しいところですね。一番重要なことは、「見逃さない」ことです。夏場にインフルエンザじゃないのに検査陽性となってしまう90人は、再検査や別の方法でインフルエンザを否定すればよいですが、一度陰性が出てしまうと追加で検査することはなかなかありませんから、本当はインフルエンザなのに検査陰性になってしまう「偽陰性」には要注意です。偽陰性が少ない検査は良い検査だといえるでしょう。

医学部の科目は暗記が必要なものが多いですが、久々にこういった計算問題が試験では問われ、他の試験に比べ、いつもより生き生きしている人もいましたね。

 


まとめ

vol.4で時間割について触れていますが、社会医学は4年の前期に1科目ずつ集中講義のように開講されます。4月の上旬が「疫学と予防医学」、中旬が「環境・労働と健康」、下旬からGW明けまでが「保健医療の仕組みと公衆衛生」で、それぞれ20コマを試験も含めて7日で終わらせます。こうして、基礎医学、社会医学を乗り越えると、いよいよ臨床医学が始まります。今回は、4年前期の「保健医療の仕組みと公衆衛生」と、「疫学と予防医学」をご紹介しました。


バックナンバーはこちら

vol.10 基礎医学セミナー(研究室配属)

vol.9 発生学・腫瘍学・生化学・分子生物学・遺伝学

vol.8 生理学・薬理学