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岩崎絵里加

経済学部経済学科4年生(2017.4現在)
出身地: 静岡県

2017/11/06

ASFサイエンストーク「まちを育てる『アート』と『サイエンス』の力~『アルスエレクトロニカ』。ヨーロッパの小さな町の大きな挑戦。」

オーストリアの地方都市「リンツ」。この人口20万人の都市に、毎年世界各地から10万人が集まり、アートとテクノロジーの祭典「アルスエレクトロニカ」を繰り広げます。なぜ、リンツに人が集まるようになったのでしょうか。また、住みよい町をつくるためにこれからの「まちづくり」とはどうあるべきなのでしょうか。株式会社博報堂 クリエイティブ・プロデューサーの鷲尾和彦さんからお話を伺ってきました。

 

鷲尾和彦(わしお かずひこ)

株式会社博報堂 クリエイティブ・プロデューサー、「生活圏2050」プロジェクトリーダー。クリエイティブ・ディレクション、新規事業開発、地方創生、文化政策、文化事業などの領域で、産業界や地方自治体とのプロジェクトに従事。国際コンペティション「PRIX ARS ELECTRONICA」審査員。著書に『アルスエレクトロニカの挑戦 ~なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』(学芸出版社)、「共感ブランディング」(講談社)など。また写真家として、作品集『極東ホテル』『遠い水平線』『To the Sea』、作家・詩人の池澤夏樹氏とともに東日本大震災発生直後から被災地を取材したレポート『春を恨んだりはしない』(中央公論新社)などの著書がある。(以上、あいちサイエンスフェスティバルwebサイトより引用。)

 

住みたくない町から住みたくなる町へ

「アルスエレクトロニカ」とは何かを理解するためには、まず、リンツがどういう町なのかを理解する必要があります。

リンツが位置するオーストリアは第2次世界大戦の戦場となり、リンツの町の1/3は戦争により焼失してしまいました。戦争が終わると、町は鉄鋼業により繁栄します。しかし、1970年代に入ると、オイルショックや世界的な脱工業化の煽りを受けて鉄鋼業は衰退していきました。さらに、町を流れるドナウ川が赤潮で濁るといった公害が深刻な問題となり、リンツは人が住みたがらない町になってしまいます。そんな中、市民の有志が、リンツにゆかりのある音楽家アントン・ブルックナーの功績を称えた音楽祭を開きますが、近隣のウィーンやザルツブルクで開かれる音楽祭に敵うはずもなく、失敗に終わりました。

しかし、ここで諦めないのがリンツ市民です。1979年に、鉄鋼業で培った技術を生かして技術者にしかできない芸術祭を開催します。これが最初の「アルスエレクトロニカ」です。

アートを活用することで、皆が楽しみながら新しい技術を取り入れ、学び、新しい時代に適応できるようになる状況を作り出すことができました。すなわち、鉄鋼業の衰退により職を失った技術者が新たな技術を学んで、脱工業化の時代に適応し新たな職を得るための仕組みができあがったのです。

最初は一部の有志が開催していましたが、徐々に市民権を得ていき、次第に多くの市民が町の誇りとして「アルスエレクトロニカ」をつくり、参加するようになりました。そして「アルスエレクトロニカ」によって市民の意識が変わり、「アルスエレクトロニカ」をつくれたようにこの町もつくっていくことができる、という確信を持って、自らが住む町を、自らの手で、自らの住みやすいようにつくり変えていきます。こうしてリンツは人が住みたくなる町に変わっていきました。

 

市民が選択する

「アルスエレクトロニカ」には一流大企業の社員から学生まで様々な人が集まり、新しい技術や作品を発表します。なぜ、多様な人がリンツに集まるのでしょうか。それはリンツに来れば、新しい技術に本当に意味があるのか否か、を考えることができるからです。会社の中や業界人が集まる展示会や学会では、最先端技術は無条件で歓迎されますが、一歩外に出てみると状況は異なります。たとえば、車の自動運転技術を例にとると、無人の鉄の塊が時速60kmで走るのを見たら怖いと感じる人がいたり、そもそも、車よりも自転車が好きだから自動運転技術に興味がないという人がいたりします。だからリンツでは、自動運転技術も、新しい自転車も、快適に散歩するための技術も、すべてが同じ土俵の上で発表され、市民は各々どれを選びたいかを考えます。このような、業界の常識の外に出て、市民と一緒になって新しい技術の意味を問い直すことができる稀有な場があるからこそ、リンツには世界中から人が集まるのです。

 

リンツに学ぶ「まちづくり」

もともとは、近隣の都市と比べると文化が貧しく、中心産業も衰退しつつあったリンツという町が、なぜこれほどまでに魅力的な町へと変化したのでしょうか。リンツの取り組みから、これからのまちづくりに必要なこととは何か、考えていきましょう。

まず一つ目は、町が昔から持っていたものを時代に合わせて変化させていくことです。どの町にも必ず町に受け継がれている資産があります。それを放棄して新たな魅力を獲得しようとするのではなく、昔からあるものを現代に通じる魅力に変えていくこと、それが、リンツが行ったことの一つです。二つ目は、多様な人々が集い、自由に討論したり話したりできる広場を持つことです。三つ目は、市民が未来予想を描けるようにするために、文化を活用することです。

リンツと同じように、戦争被害を受け、一度は産業が栄えたものの現在は衰退の道をたどっているという都市は日本にも多くあります。今後、日本各地に魅力的な町を数多くつくっていくためにはどうすればいいのか、リンツの事例から学べることは多いのではないでしょうか。

 

 

あいちサイエンスフェスティバルでは、地域にサイエンスやものづくりを気軽に楽しむ文化を育むため、毎年秋に100以上の企画を行っています。実験ショーやカフェでの講演会など、普段はサイエンスから縁遠い人でも気軽に参加できるような企画が盛りだくさんです。また、今回のようにまちづくりの話があったり、科学報道についての話があったりと、サイエンスが自分の生活にどう関わっているのかを知れる機会にもなっています。中高生を対象にした企画もあるので、みなさんも参加してみてはいかがでしょうか。最後までお読みくださりありがとうございました。

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