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渡具知 萌絵

文学部卒業生(2017.4現在)
出身地: 沖縄県

2016/10/18

ASFサイエンストーク「いま求められる、サイエンスコミュニケーション」

地球温暖化や原子力エネルギー、遺伝子組み換え技術など、日々のニュースは科学に関連するものが多くなっています。しかしながら、科学の専門家とわたしたちをつなぐ「サイエンスコミュニケーション」は発展途上です。科学と社会をつなぐ試みにおいて何が求められているのか、元・科学記者の小出重幸さんと科学哲学者の落合洋文さんにお話を聞いてきました。

 

         サイエンストークで講演する落合洋文さん

 

左:小出重幸(こいでしげゆき)
1951年東京生まれ。日本科学技術ジャーナリスト会議会長、政策研究大学院大学客員研究員。元・読売新聞科学部長、元・英インペリアルカレッジ科学コミュニケーション大学院研究員。北海道大学理学部高分子学科卒。主な著作に『夢は必ずかなう-物語 素顔のビル・ゲイツ』中央公論新社(2005)など。 

 

右:落合洋文(おちあい ひろふみ)

愛知県生まれ。名古屋文理大学教授。1982年京都大学工学部合成化学科卒業。1987年同大学大学院工学研究科修了、京都大学工学博士。1995年名古屋大学大学院人間情報学研究科博士前期課程修了、名古屋大学修士(学術)。外資系企業の研究員などを経て、現在に至る。専門分野は有機化学、化学哲学。主な著書に『サイエンス・ライティング入門』ナカニシヤ出版(2007)など。

 

イベントの前半は、小出さんが「科学の信頼とは?」と題して講演を行いました。

クライメートゲート事件

200911月、気象研究で有名な英・イーストアングリア大学のコンピューターから電子メールなどが盗み出され、わざと気温の低下を隠したかのようなやりとりが暴露されました。温暖化に懐疑的な人たちが「国際的陰謀の証拠だ」と批判し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)への信頼性も大きく揺らぎました。英米メディアはウォーターゲート事件*1になぞらえてクライメート(気候)ゲート事件と呼びました。

IPCCは国連環境計画と世界気象機関が合同で設立した組織で、世界中の専門家が所属していることから、信頼のおける情報源とされています。しかし一連の騒動によってIPCCの報告書に間違いがあることが分かり、一部の報道機関は現在の気象研究に疑問を投げかけました。

公的機関による調査の結果、最終的に不正の事実は見つかりませんでしたが、市民からの信頼は失ってしまいました。「失った信頼は簡単に戻らない。コミュニケーションを通して、科学の信頼を取り戻すことが必要になる」と小出さんは話していました。

*1 ウォーターゲート事件...1972年民主党本部のウォーターゲートビルに盗聴器が仕掛けられた事件。共和党のニクソン大統領を辞任に追い込んだ。

 

自ら取材し、発信する英国の科学者

2001年にノーベル医学・生理学賞を受賞した英国王立協会のポール・ナース会長が、2011年にBBC制作の「Science under attack」というドキュメンタリー番組でインタビュアーを務めました。「科学の信頼」が揺らぐ現場を自ら取材し、関係者にインタビューしていくという内容でした。

現場を訪ねてインタビューするのは、ジャーナリストの仕事です。しかしポール会長は、「科学者がジャーナリストに近いことをやらなければならない。科学者以外の仕事もするのが、我々の大きな責務だ」と主張しました。

小出さんは科学ジャーナリストの仕事を、「飛び込んできた情報を<社会>という座標軸のなかで、「質量」や「速度」を測定し、どこから来てどこへ行くのかを判断し、それを"社会的インパクト"ということばに置き換えて、提供することだ」と考えています。下の図を見ると、ポール会長も小出さんと同じ視座を持っていたことが分かりますね。

ジャーナリストのプロフェッションを示した図。作成:小出重幸

 

科学コミュニケーターの資質

日本では多くの科学コミュニケーターが、科学館などで科学の面白さを伝えています。日本の「科学コミュニケーション」は「平時のコミュニケーション」ですが、英国の首席科学顧問や米国の大統領科学顧問のように、科学コミュニケーターはあらゆる事態に対して、適切なメッセージを発信する役割が求められています。例えば主席科学顧問の場合、

・科学や技術に関する事柄を、様々な領域にまたがって評価し判断する。

・政府に対して、可能な限り最善な科学的助言をする。

・市民へ分かりやすいメッセージを発信する。

といったような役割があります。

 

Science Communication」という言葉は英国で生まれました。198090年代、英国では狂牛病(BSE*による社会の大混乱がありました。政府や科学界が間違った判断を発表したために、「政府の言うことも、科学者の言うこともまったく信用できない」という世論が蔓延し、これを解決する手がかりとして「Science Communication」が示されました。コミュニケーションは、単なる理論やスキルではありません。社会全体の枠組みの中で、科学コミュニケーションの実務的な役割を考える必要があります。

*2 狂牛病...正式にはウシ海綿状脳症(BSE)。ウシが脳障害をおこす病気で、プリオンという特殊な感染性タンパク質が体内に入り感染する感染病。1986年に英国で初めて確認された。この狂牛病のウシを人間が食べて、ヒトのプリオン病であるクロイツフェルト=ヤコブ病(CJD)が発生してのではないかとの疑いで問題になった。

 

科学者・技術者には、「私の専門はこれです」「だから、後のことは知りません」と境界を設けて話す傾向がありますが、それだと聞き手は混乱してしまいます。1人のコミュニケーターが専門領域を統合した全体的な評価をすることの重要性を、英国は狂牛病事件で学びました。

2011年の福島第一原子力発電所事故発生の5日後、ジョン・ベディントン前英政府首席科学顧問は、科学的評価に基づいて事故状況の概要と予測を1人で伝え、「放射線の影響を考えても、東京から逃げ出す必要は全くない」と発表しました。これによって、日本国外に逃げ出した外国人もすぐに日本に戻り、東京が核パニックに陥る事態を防ぐ役割を果たしました。このように学際的な見識を持つ科学者がいてはじめて、市民やメディアと科学を結ぶコミュニケーションが可能になるのです。

 

  サイエンストークの様子     

 

 

後半は落合さんが進行役を務め、小出さんに話題を提供する形で進んでいきました。

――サイエンスコミュニケーションのあり方とは

小出:皆さん、「科学者の言うことは絶対正しい!」というような認識があると思いますが、科学には必ず不確実性(uncertaintyがあります。しかしその上で何が正しいか、良い物差しはないかを、国民とメディアに向けて述べることが求められているのです。例えば「リスクが5%ある」と言われても、よくわかりませんよね。具体的にどのような影響があるのかということを、言い換えて説明する必要があるのです。

 

――日本の教育、人材育成とは

小出:これからの日本が考えなければならない問題が、「決断ができ、責任が取れるリーダー」の人材育成です。欧州では大学に進学する人はごく一部で、高等教育を受けた人間は社会に対して人一倍責任を負う、という「ノブレス・オブリージュ*3noblesse oblige)」の考え方が根底にあります。日本は第二次大戦後の高等教育政策によって、多くの人間が大学で教育を受ける機会に恵まれました。ところが現在、日本のトップに立つ人たちには「決断と責任」というリーダーとしての意識が欠けています。諸外国の科学顧問と同等なポジションがあり、リーダーとしての資質を備えた人材がいれば、2011年の福島原発事故の際にあれほどの混乱を招かなかったと思います。

*3 ノブレス・オブリージュ(仏語)...身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。

 

落合:ドイツでは散歩道に果物が植えてあるので、「これは食べられる、食べられない」というように、小さい頃から生物学や植物学が感覚的に身につきます。このような非言語コミュニケーションはとても大事です。日本も実践してみたらどうかと思っています。 

大学の授業一つとっても、英国などは少人数のクラスで、教員とフランクに話せる環境が整っており、自然にさまざまな人と討論する習慣があります。

 

小出:科目で最も重要なのは、歴史と哲学ですね。日本では哲学も歴史も、「暗記科目」だと嫌がられますが、過去の思想家の思索の跡を辿ったり、歴史上の人物や国家がいかに決断し、行動したのかを自身の立場で反芻したりするうちに、「このような環境に置かれたら、自分ならこう決断しよう」という判断力が身につきます。

人が人を育てるには時間がかかりますからね。英国が一世代かけたように、日本も若い世代への教育によって、多領域の情報を判断し、科学と社会をつなげることができる人材を育成できるようになるといいですね。

 

 


 

今回のイベントは「あいちサイエンスフェスティバル2016」の一環として、地下鉄久屋大通駅のすぐ近くにあるCafe &Bar Perms(パームス)で行われました。軽食とドリンクをいただきながら、まさに海外にある大学の授業のようなスタイルでお話を聞かせてもらいました♪ 

講演の中でも少しお話が出たのですが、名古屋大学の「博士課程教育リーディングプログラム」は、まさに今求められている、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くための取り組みです。現在6つのプログラムがあり、それぞれの特長を活かした教育プログラムを展開して、広く世界で活躍できる人材を育成しています。日本でグローバルリーダーの養成を行っている大学は少ないようなので、興味のある高校生の皆さん、まだ先の話かもしれませんが、気になったらぜひホームページをチェックしてみてください。これからの日本や世界を担う人材が名古屋大学から輩出されることを願います!!

☆名古屋大学 博士課程リーディングプログラム

http://www.leading.nagoya-u.ac.jp/index.html

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